Connecting Smart Tokyo to World Cities ~France(Dijon・Paris)~
Part①(Dijon:大都市圏統合型スマートシティ構想)


東京都

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はじめに(海外先進事例の現地調査)

 デジタルサービス局では、東京デジタルアカデミーの一環で、都及び区市町村職員の能力向上や政策立案への反映を目的に、海外のデジタル先進事例に関する情報収集や知見獲得を行っています。今回は、2023年11月に現地調査したディジョン・パリ(フランス共和国)の様子を速報版として2部構成でお届けします。


この記事でお伝えしたいこと

フランスのオープンデータ推進政策を基盤に、自治体が推進するスマートシティの先進事例(全2回)
広域自治体連合ディジョン・メトロポールが実施する大都市圏統合型のスマートシティ構想
都市マネジメントのデジタル化(まちのセキュリティ管理、公共交通管理や道路管理、街灯管理、信号管理など)

1.いま東京にスマートシティが必要なわけ

 持続可能な未来へのパスウェイを築くため、いま、世界中で次世代の都市の在り方に関する議論が白熱しています。その中でも、デジタルテクノロジーを活用して、エネルギー、モビリティ、インフラ、公共サービスなどの効率化や改善を目指す総合的アプローチ「スマートシティ」への期待が高まっています。
 東京都でも、デジタルの力で東京のポテンシャルを引き出し、都民が質の高い生活を送ることができる「スマート東京」の実現に向け、官民連携のもと、先行モデルの構築や、スタートアップと連携したスマートサービスの創出、データ流通基盤の整備などを通じ、東京全体のスマート化を進めてきました。
 「スマートシティ」は人間中心の設計、ウェルビーイングを重視していることなどからも単なる技術論とは一線を画し、取組にあたっては、デジタル、まちづくりといった単一分野に留まらない最前線の情報収集や議論を継続的に行っていくことが重要です。世界をみわたせば、様々な都市で、従来の市民参画やEBPMをアップデートするデジタルツールやスタートアップによる新しいサービスなども次々に生まれています。
 今回の記事では、都市東京を舞台に各エリアでスマートシティの取組を進める際に参照されたい世界の戦略・ベストプラクティスのひとつとして、フランスの2都市「ディジョン」「パリ」での取組を紹介していきます。

2.フランスのオープンデータ推進

 フランスのオープンデータ推進は「デジタル共和国法(2016)」に支えられています。デジタル技術の進歩を活用し、情報の公開とアクセスを促進することを目的に、政府機関や公共機関が保有するデータをオープンデータとして公開することを義務付け、情報の公開範囲や公開方法、データの利用制約などを定めた法的基盤です。政府機関や公共機関のデータの公開を進め、データの利用条件を明確化しながら、民間企業や市民が多様なデータを活用し、新たなビジネスやサービスの創出に取り組める環境整備を進めているのです。

フランスの主なデータプラットフォーム

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data.gouv.fr: 国家、地方自治体、公共機関に関するデータのオープンプラットフォーム。5万程度のデータセットを含み、10万以上のユーザーがいる。
etalab: data.gouv.frの開発・運用者
Insee: 国立統計経済研究所。生成された統計情報をオープンデータ化している。

 このほかにも、2050年のカーボンニュートラルを目標に、モビリティ革命をけん引する、モビリティ基本法(LOM法)(2019年)があります。同法のもとでは、移動サービス事業者は、営業許可の条件として、行政機関に対し移動サービスデータを提供しなければなりません。政府は世界に先駆けて官民データ連携基盤を構築し、こうした移動サービスデータを一元化してきました。公共交通機関のほか、カーシェアリングや自転車シェアリング、EV充電施設など幅広いデータの収集が進んだ結果、フランスでは、新しい移動支援のビジネス・サービスの実装を短期間で進めることができました。

●交通アプリ:Citymapper
・メトロやRERのほか、シェアライドやシェアサイクル等の経路情報が表示される。モビリティ法によって、定時運行するすべての公共交通機関等がデータをオープン化していることから民間アプリでの実装が可能。また、ユーザーはアプリを使用しながらの移動情報を還元することができる。 kiji34-2.png

●ライドシェアアプリ:BlaBlaCar

・パリでは、Uberとは別に、ライドシェアも一般的に活用・普及している。

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 このたび、2部構成で紹介するディジョンやパリなどの地方自治体も、こうした基盤のもとで、地域の特性やニーズに合わせ、統計データや公共交通機関のデータなど地域に関連する情報を提供するとともに、地域のデータの収集や整備に取組みながら、スマートサービスのインストールやインフラのアップデートを進めているのです。

3.ディジョン:大都市圏統合型スマートシティ構想

 ディジョンは、フランスの中東部に位置する、人口15万人 (2020)、面積40.41㎢の地方都市です。ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏の首府で、豊かな文化遺産や美しい建築物のほか美食の都としても知られていますが、近年では、毎年バルセロナで開催されている世界最大規模の国際博覧会「Smart City Expo World Congress (SCEWC)」の2018年「シティーアワード」において2位を受賞するなど、スマートシティの取組も評価されています。
 今回の調査では、取組の中心となるOnDijonコントロールセンターを訪問し、副市長のアモー氏や公共空間管理部門の責任者マシュー氏(コンソーシアム企業スエズ社出身)にヒアリングを行いました。

図:ディジョン市の位置
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写真:歩行者優先が進むまちなみ
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OnDijonの取組概要
 都市計画や交通計画など主な都市運営を共有している広域自治体連合ディジョン・メトロポール(ディジョン市と23のコミューン、人口26万人)が実施する大都市圏統合型のスマートシティ構想。まちのセキュリティ管理、公共交通管理や道路管理、街灯管理、信号管理など、あらゆるサービスをデジタル化されたシステムで接続し、メンテナンスやセキュリティ機能を完備させることで、都市マネジメントの質向上とコスト削減を目指す。「市民へのサービス提供を中核に据えること」「都市の魅力向上」を理念に計画を推進している。

【経緯】

2014年 「都市マネジメントのデジタル化」の発想を得る
2015年 OnDijonプロジェクト発表
2018年 Smart City Expo World Congress 2018 シティーアワード2位受賞
2019年 OnDijonコントロールセンターオープン
2021年

街灯管理、建物のセキュリティ、移動・乗客情報、信号操作、パーキング情報など約10の都市機能を監督するセンターとして本格稼働

■主な取組(※財源の中心はメトロポール予算)
・広域自治体連合ディジョン・メトロポール共通のコントロールセンターの設置・運営

公共交通制御のコントロールセンターと市民の声を収集するコールセンター、公共スペースの警備を担当する自治体警察がリアルタイムに情報連携し、都市マネジメントをワンストップ化

・住民が行政サービスにアクセスできるアプリ「OnDijon」の提供

 ▻ 市民による行政への通達・連絡の仕組み/証明書等のデジタル化

写真:写真中央がアモー副市長。東京都のほか、在仏日本大使館やクレアパリの職員も同席kiji34-11.png

【初動】

 OnDijonの取組は、公共照明や信号など、それぞれに管理されていた都市機能の老朽化及び刷新タイミングを捉え、「長期的な都市マネジメントのエコノミカルなビジネスモデル」として構想されました。単なる置き換えと比較した削減コストについて、とりわけ既存の都市インフラコストの大半を占めていた街灯照明の削減効果なども具体的に提示しながら、副市長の強いリーダーシップのもと関係者に粘り強く説明をした結果、「都市インフラの更新に際し、必要に応じて新しい技術を統合した堅実な取組」としてコンセンサスを得たことがあります。ともすれば目新しい技術に安易に飛びついているとも誤解されかねないスマートシティの取組においては、計画の初動から着実にコンセンサスを得ていくことが、確実な稼働につながります。そのうえで、取組を軌道に乗せた現在に至るまで、「市民へのサービス提供を中核に据えること」「都市の魅力向上」からぶれずにいることも成功を支える大切な姿勢といえるでしょう。

【事業構築】

 Dijonにおいても、事業の組成にあたってはベンチマーキングとして世界中の都市マネジメントを調査していますが、アモー副市長は、「各都市の構造や現在に至るプロセスによって課題解決に向けた優先順位が異なるため、取組をそのまま横展開することはできない。」と言います。それぞれの都市の取組を参照する際は、要素ごとに分解したうえで、自都市の状況に応じ、カスタマイズして取り入れるべきという重要な観点です。
 都市マネジメント業務(システムを開発・実装しメンテナンスを行う)では、オープンデータ化、サイバーセキュリティ、データを使いこなす職員の人材育成、市民理解醸成のアプローチ方法など多岐にわたる課題があったことから、あらゆる企業からのコンピテンシーを寄せ集める必要がありました。そのため、入札にあたっては、実際に危機管理のケーススタディ課題を提示し、単なるコンピューター上のシミュレーションではなく、どのような現場対応プロセスを行うかまでも具体的に提案をさせたそうです。結果的に、複雑な都市マネジメントサービスに対応するため、建築系事業者がデジタル関連会社やスタートアップなどを組み込んだコンソーシアムとして応札をしました。特筆すべきは、落札後2年をかけて議論を重ね、ボーナスと罰則双方を規定した大量のグローバルコントラクトを作成したということです。アモー氏は、こうしたTEST&RUNも、行政側のコンピテンシー育成につながったと言います。また、事業者は今も1億500万ユーロ(12年間)の予算で利益を上げるため、継続的にシステムを改良しコスト削減を目指しているとのことで、こうした官民Win-Winのビジネスモデルがプロジェクト成功につながっているのでしょう。

【OnDijonコントロールセンター】

 OnDijonでは、建物内にある公共交通制御のコントロールセンターと市民の声を収集するコールセンターのほか、隣接した建物で活動する自治体警察が、システムを通じ情報連携し、都市マネジメントをワンストップ化しています。また、コールセンター窓口ではデジタルデバイドも補完しており、得た情報はデータ化のうえタイムリーに連携しています。1日あたり600-700の問い合わせに対し回答率は85%、残りの15%もタイムラグはあるが回答しているとのことでした。こうした地道なコミュニケーションが市民からの信頼を得て取組へのコンセンサスにつながっているのでしょう。

写真:制御室kiji34-7.png 左手に都市インフラ、右手に公共交通運営の管理部門が配置されている。それぞれの大型スクリーンにはリアルタイム映像や地図が表示され、それぞれの施設や設備、交通機関の状況が遠隔監視・管理されている。例えば、建造物、公共照明など設備ごとに公共工事のリアルタイム情報が表示されるほか、緊急車両の現場対応やイベント開催など状況に応じた照明の照度調整などもできる。

【危機管理の「ソリューションシート」】

 建物内には、緊急事態に迅速かつ効果的に対応するため、情報収集・分析、リソースの調整、意思決定支援などの機能を備えた危機管理センターが設置されています。そこでは、市民からの通報を受けた場合など、「事故ファイル」として件名・通達者や事故内容を入力すると、情報を共有すべき範囲や各連絡先が表示され、初動から事後報告までの連絡内容が共有・記録される「事故ファイル」作成のシステムが整備されています。対応するための情報はデジタル化を進める一方、対応でのAI活用などは現時点考えておらず、「問題のある拠点に適切な人材を派遣すること」「関係者間で対応状況をタイムリーに共有すること」をシステムの目的としているとのことでした。エンジニアやユーザーと議論を重ね、必須情報としての定型入力のほか、対応した職員がNOTEを付記できるような自由度も認めた設計に仕上げられており、あくまでも、市民へのサービス提供を中核に据え、実務の必要に沿ったスペックで確実なサービスを提供しているという姿勢が印象的でした。

写真① 写真②
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写真③ 写真④
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①道路工事、火災、街灯切れなど、すぐに対応しなければならない事項の情報を統合したチャート。
②地図上で色分けされた、照明、緑地など属性ごとに、各チャートにおいて、公共工事のステイタスや今後のプロセスなどが一覧化表示される。

③照明、交通信号、ボラードなどが遠隔操作可能。

④市民から通報のあったポイントを表示。落書きや不法投棄等の情報を色分けし記録。通報は単に受けるだけでなくリプライまで対応

【OnDijonアプリケーション】

 OnDijonのアプリケーションには、市民と行政間のコミュニケーションを強化するため、「行政情報の一元化」「通報機能」「インタラクティブなコミュニケーション」といった機能が備えられ、Dijonの効率的で便利な行政サービスを支えています。しかし、2021年に1,200人の市民に依頼をし、結果として200人の市民が試用した当初モデルは不評だったといいます。その後、改良を重ねながらローンチをした後も、一旦3,000ダウンロードを達成した時点で新規受付を中止し、リアルタイム配信が適切に機能しているかを確かめるステップがとられました。2万人がアプリケーションをダウンロードしている現在も、度々バグが生じながらも、TEST&RUNを惜しまない姿勢があります。単にDL数を増やしたいのではなく、「市民に何を供給できるか、何の課題を克服できるかが重要」の考えのもと、現在も、本当に援助が必要な生活保護者に適切な援助できていない実態を踏まえ、どうやって情報を伝えるかという観点で、コミュニケーションツールを開発しているとのことでした。アジャイルな開発手法のもと、トライ&エラーを繰り返しながら、市民のニーズを的確に捉え素早く反映するという、重要な観点です。

写真:OnDijonアプリ
  1. 行政情報の一元化:
    市のイベント情報や施設の営業時間、申請関連情報などを集約
  2. 通報機能:
    道路の穴や公園の清掃が必要な場所など異常事態や問題を行政に報告できる
  3. インタラクティブなコミュニケーション:市民から行政に対し質問や提案を行える
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【スマートシティ推進のサクセスキー】

 ヒアリングの最後に、アモー副市長からは、スマートシティの取組はそのまま横展開できるものではないとしつつも、普遍的な3つのサクセスキーがあると伝授されました。
1)政治的なシステム・ガバナンスが強固であること。市長がぶれない姿勢であること
2)を支えるアドミン部門の強化。縦軸のみならず横軸で動ける、内部人材育成が重要
3)と同時に民間企業と同格に対話のできる行政の専門人材専門家育成が重要

【Dijonまとめ】

 Dijonの取組には、可視化された効果に基づくコンセンサス形成や事業構築の丁寧なステップ、危機管理の徹底、絶えず進化するための努力など、随所に示唆がありました。大都市圏統合型のスマートシティ構想として、「市民へのサービス提供を中核に据えること」や「都市の魅力向上」という誠実な理念のもと、必要の範囲のスペックで、徹底したリスクヘッジと市民に寄り添ったアジャイルな改良に努力を惜しまない姿勢は、是非参考にしたいものです。


(次回「パリ編」につづく。)

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