【TDA海外先進事例調査】全米No.1!ロサンゼルス市のデジタルガバメント構築に向けた取組
東京都
はじめに(海外先進事例の現地調査)
デジタルサービス局では、東京デジタルアカデミーの一環で、都及び区市町村職員の能力向上や政策立案への反映を目的に、海外のデジタル先進事例に関する情報収集や知見獲得を行っています。今回は、2023年12月に現地調査したロサンゼルス市(アメリカ合衆国)での調査について、渡航職員の目線で感じたことをお伝えします。
この記事でお伝えしたいこと
・ロサンゼルス市のデジタルガバメント構築に向けた先進的な戦略策定
・ロサンゼルス市の住民サービス向上のための取組事例
・DX先進都市が抱える課題意識
1 なぜロサンゼルス市を調査?
ロサンゼルス市は、「Digital Cities Survay 2023」(全米を対象とした都市のデジタル化に関する調査)において、人口50万人以上のカテゴリーで1位を受賞しました。2021年・2022年にも2位を獲得しており、アメリカでも特に行政のデジタル化が進んでいる都市のひとつです。受賞の理由としては、ホームレスの住居対策にデジタル技術を活用し、デジタルプラットフォームの作成やデバイス提供、Wi-Fiインフラ整備などを行うことで公共の安全性を高めたことが挙げられています。
また、東京都では都民が実感できるサービスの質向上を目的として「シン・トセイ」戦略を策定していますが、ロサンゼルス市においても課題認識や方針が近い「STRATEGIC PLAN」を策定しており、課題や取組の進捗について意見交換をすることを目的として調査を実施しました。
2 ITA(Information Technology Agency)
今回の調査では、ロサンゼルス市のデジタル所管部署である「Information Technology Agency(以下、ITAという。)」の取組について主にヒアリングを行いました。ITAは、ロサンゼルス市におけるデジタルサービスの提供や他部署に対する技術的なサポートを行っている部署です。ITAの主な取組内容として、DX戦略、MyLA311、Webサービスの3点について共有します。
3 ITAのDX戦略
ロサンゼルス市では、戦略の策定にあたって市民との相互理解を重要視しており、市民にも分かりやすいシンプルな計画にすることを心掛けています。IT技術の革新スピードは非常に速いことから、計画も長期的なものとはせず、基本的には1~2年を目途に見直しています。
ロサンゼルス市では主要なデジタルサービスについて、KPIを設定しています。毎月の定例会でKPIの進捗を報告することで説明責任を果たす組織文化を醸成するとともに、達成できなかった場合に非難ではなくサポートする体制を整備しています。
また、現在特に課題となっているのがデジタル人材の確保です。アクティビティカレンダーを作成して職員のエンゲージメントを高めることや、公務員ならではの安定した生活の質・仕事のやりがいなどをパッケージとしてアピールすることなどで人材を引き付けています。
4 MyLA311
MyLA311は、電話・ウェブサイト・アプリなど、市民が自分の好みのチャネルから迅速かつ簡単に公共サービスや行政情報にアクセスできる仕組みであり、例えば粗大ごみの回収依頼や駐車違反の取締りなど、1,500を超える行政サービスの申請等が24時間365日可能です。
一方、ヒアリングの中でシステムのUIUXについて、申請の際の選択肢が多すぎることでユーザーが途中であきらめてしまうことがあるといった課題が挙げられました。
たとえば、落書きの清掃を依頼する場合、たくさんの申請の中から「落書きの清掃」という項目を探したうえで、それがどこにあるのか、具体的には「路地裏のドア」や「レンガの壁」など、詳細に選択していく必要があり、ユーザーは1回の申請につき数十から百近い選択肢を確認し、選択しなければなりません。
これに対しては、システム更改に併せた操作の簡素化や操作方法の動画コンテンツ配信を検討しているほか、より便利なサービスを市民に提案することを目的として、「Angeleno Account(アンジェリーノ・アカウント)」というロサンゼルス市民の個人IDを活用し、それぞれの市民に必要なコンテンツをプッシュ型で配信したいとの構想を伺いました。加えて、テキスト入力だけでなく動画投稿も可能とするなど、ユーザーの入力負担に配慮していく予定です。
5 Webサービス
ロサンゼルス市のウェブサイト上では、住民向け・事業者向けのさまざまな手続が可能なほか、手続きによってはMyLA311や関連サイトに連携しており、訪問者数は毎月約15万人にのぼります。ITAは、ロサンゼルス市のメインサイトの運営等を行っていますが、他部署が所管するその他のHPについてもガイドラインの提供や技術的なサポートにより支援しています。
Webサービスについて、従来はGoogle Analyticsでユーザー解析を行っていたそうですが、それほど詳細な分析ができず、ユーザーへのヒアリングを別途行っていました。
それを解決する手段として、「Hot Jar(ホット・ジャー)」というツールを導入しています。このツールは、サイト上で表示頻度が高い部分を赤く表示したり、ページ内におけるユーザー経験、たとえばカーソルの動きや時間、クリック頻度などを記録し、可視化したりできるツールです。これにより、たとえばよく見られている部分に重要な情報を配置したり、時間がかかっている手続を特定してフローの作成や見直しをしたりといった改善を実施しています。
【Hot Jarのイメージ】
このツールの利用には毎月数百ドルかかりますが、従来はユーザーへのインタビューで数千ドルかかっており、かなりのコスト削減につながりました。また、Hot Jarは自動でユーザーの行動を記録してくれるのに対し、インタビューには1か月もの期間がかかるので、職員の負担軽減にもつながっています。
6 最後に
私たちが取り組んでいる行政のDX推進の難しさを改めて感じる一方で、海外先進都市と協力して取り組む意義や重要性を実感しました。 今後も海外都市との情報共有や意見交換を行いながら、東京都でも顧客視点で質の高いサービスを実現すべく、日々取り組んでいきたいと思います。
7 調査報告資料
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