【TDA海外先進事例調査】米シカゴで見た!住民参加型のスマートシティの取組
東京都
はじめに(海外先進事例の現地調査)
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シカゴの先進的なスマートシティの取組を調査して得た学びを共有するとともに、先進事例の調査を検討している都・区市町村職員等の出張先や内容検討等の参考にしていただきたい。
1.なぜシカゴ出張に?
今回私たちは、アメリカ合衆国第三の都市、シカゴ市を訪れました。
渡航の主目的は、同市で毎年開催されている“Pritzker Forum on Global Cities”への参加です。知事のビデオメッセージを届けるともに、現地でこのフォーラムに参加してきました。
あわせて、先進的なスマートシティの取組を進めるシカゴ市の現場の声を直接伺うなどリサーチのため、シカゴ市庁を訪問して意見交換を行いました。今回は、Pritzker Forumとシカゴ市庁で伺ったスマートシティの取組について紹介します。
2.Pritzker Forumとは?
Pritzker Forumは、グローバルな課題における都市が果たす役割について、都市政府、経済界、芸術、教育分野の関係者等が横断的に話し合うことを目的としたフォーラムです。2015年から、Chicago Council on Global Affairsとファイナンシャルタイムズの共催で毎年開催されています。
今年のテーマは“Harnessing AI: Tools for Urban Leaders”(AI活用:都市リーダーのツール)でした。ビデオメッセージの中で、知事は、「急速な進歩を遂げるAIは都市課題の解決においても大きな可能性がある」とAIの活用への期待を寄せるとともに、サイバー空間上に東京の街を再現するデジタルツインの取組や、持続可能な都市を目指す上でのAIを活用した高度な分析・シミュレーションの可能性等について触れました。当日は、企業経営者や行政職員、学識経験者など、様々なゲストを招いたパネルディスカッションが多数繰り広げられました。例えば、“Building a Workforce for the AI Economy (AI経済における労働力の構築)“を取り上げたパネルディスカッションでは、行政はAI活用に必要なスキルを習得できる環境を整えることが重要だが、デジタルスキルの世代間格差(こどもはデジタルネイティブ、大人の教育も大切)への配慮が欠かせないなど、いわゆるデジタルデバイドについて議論されていたことが印象的でした。
3.シカゴ市庁交通局が行う“Chicago Smart Lightning Program(CSLP)“とは?
フォーラムに参加するとともに、今回の渡航では、シカゴ市庁交通局(Chicago Department of Transportation(CDOT))の長官代行にヒアリングを行うことができました。CDOTは、2017年から街路灯の老朽化に伴う建て替えに合わせ、“Chicago Smart Lightning Program (CSLP)”に取り組み、街路灯のスマート化を推し進めました。このCSLPについて重点的にヒアリングを行いました。
CSLPでは、街路灯の建て替えに伴いLED化を進めるとともに、センサーデバイスと無線基地局の整備を行いました。街中の28万本の街路灯にセンサーを設置し、電源のOn/Off、電流、電圧等の情報を収集、併せて無線基地局も整備することで、それらの情報をリアルタイムで収集しています。
リアルタイムで収集された情報は、スマート街路灯管理システムで、一目でどの街路灯に不具合が起きているかを把握することが可能となっています。これらにより、停電等のトラブルを検知して自動で行政に状況を連携し、修復のための職員派遣を効率化しています。
本プロジェクトは、街路灯のLED化と管理の効率化により行政コストを大幅に削減したことにとどまらず、関連機器の製造・設置・管理等をすべて市内で行うことで、雇用を創出し、また、人材育成を果たした点や、LED化で照度が上がったことで治安改善に寄与した点でも、市民に人気の政策であったとのお話を聞くことができました。
今後は、整備したセンサーネットワークを、水道管やガス管等の管理にも活用したいという展望もあるとのことで、実現すれば更なる市民サービスの質の向上が見込まれます。
このCSLPに関して印象的だった点は、大きく2点ありました。
1つ目が、データ取得目的を明らかにした上で必要なセンサー等を設置することが大切である、とCDOT幹部が強調していたことです。データ取得の際には、あらかじめ具体的な活用目的を明確にしたうえで、そのために必要なデータ、センサー等の機能や運営モデル等を十分に吟味することが重要であり、設置してから活用方法を検討したり、目的がぶれたりするようでは上手くいかない、明言していました。デジタルの力で東京のポテンシャルを引き出し、都民が質の高い生活を送る「スマート東京」の実現を目指す東京都にとっても、様々なデータをつなげ、新たなサービスを創出するなど、データ利活用を推進し社会課題を解決していくことは極めて重要です。改めて、データ利活用における目的明確化の重要性について認識させられました。
2点目に、実際に現地に住む日本人の方からも、CSLPで生活が改善した、という生の声を聴くことができた点です。市民が効果を実感できる取組となった理由として、以下の2点が考えられるのではないかと感じました。まず、CSLPの導入に当たって、CHI311(*1)という市民の声をくみ上げる仕組みで得られた市民のニーズも根拠にしたこと、また、スマート化による行政コストの削減のみならず、雇用創出や治安改善など、CDOTの所管分野を超えた複合的な効果を狙った政策であったことです。東京都でも、都民の実感を伴うデジタルサービスへの変革に取り組んでいます。都民からのニーズをくみ取り政策へ反映させること、部局間で連携した政策を打つこと、また、政策効果を幅広い視点で分析し訴求していくことの重要性に気付かされました。
*1:シカゴ市では、住民が市に対して、防犯、健康、消費者保護、道路保守等に関する幅広いリクエストを簡単に送信できるCHI 311アプリを実装している。
4.シカゴ市内のスマートシティの取組
その他のシカゴ市のスマートシティの取組についてもいくつか紹介したいと思います。
Array of Things
シカゴ市では、街中の信号機やバスシェルターにセンサーを設置し、データを活用する“Array of Things”プロジェクトを実施しています。このプロジェクトでは、環境センサー(温度、気圧、振動、周辺音圧)、大気センサー(CO2、オゾン)、カメラ(歩行者、車両通行量)などを設置しています。
これらセンサーから取得したデータは、高校の教育現場で活用されるほか、大学、研究所等で研究される等、様々な活用がされています。
シカゴ建築センターでのオープンデータ活用
また、完成記念式典に市長が出席したシカゴ建築センターでは、オープンデータを活用した展示が行われていました。市が実施している上記のArray of Things プロジェクトのセンサー設置場所や、Potholes(道路が陥没し空いている穴)の場所など、市が公開するオープンデータを使った展示を実施していました。市の特徴でもある街中の美しい建築物のミニチュア模型とオープンデータを組み合わせた展示で、シカゴ市ならではの魅力を発信していたのが印象的でした。
住民参加型コミュニティイベントCHI Hack Night
シカゴ市では、デジタル技術を通じた問題解決を目指す市民参加型のコミュニティイベントも活発に行われています。中でも、オープンデータを活用するハッカソン“Chi Hack Night”は、10年近く継続しており、毎週火曜日の夜に開催されています。シカゴ市は官民共創が根付いた世界をリードするハッカソン実施自治体であり、運営に重要なポイントとして以下の点を掲げています。
1. 毎週同じ時間、同じ場所に集まる
2. メンバー紹介は必須
3. ボトムアップで組織する
4. さまざまなスポンサーやパートナーがいる
5. 余計な話をすることに集中する
6. プレゼンテーションのテーマの多様性
7. 初心者を歓迎する
8. コミュニティの意見に耳を傾ける
9. 常に実験を続ける
10. Have fun!
(引用:https://chihacknight.org/blog/2015/11/23/10-lessons-from-organizing-the-chi-hack-night)
5.最後に
今回の記事では紹介しきれませんでしたが、Pritzker Forumについては、フォーラムへの参加にとどまらず、主催者であるChicago Council of Global Affairsの参加者とも交流して意見交換を行うことができ、また、思いもよらぬ出会いがあるなど、都市間の連携につながる人脈を得ることができたと感じています。また、シカゴ市庁交通局へのヒアリングの中では、国は違っても、実は同じような悩みを抱えている、と感じることも多く、都市間で情報共有を行い課題解決に取り組むことの重要性を実感することのできる貴重な機会となりました。現地に赴いたからこそ得られた見聞を、これからの職務にしっかりと役立てていきたいと思います。
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